Claire's Fantasy レビュー

 カリスマの主宰であり、サウンドレコーディングなど、数々の著述、そして作・編曲家でもある高山博氏から、St.Claireの 作品レビューが届きました。楽曲を試聴頂き、めっちゃ温かいお言葉の数々、先生、ありがとうございます!!

アルバム全体についてのレビューを、ご紹介させて頂きます。(写真は 数年前、横浜「まごころ居酒屋Roundabout」にて、先生と♬)


~劇的な構成と優しい抒情が彼方へと導く~
                         = 高山 博 =
安斎ゆう子は、関西を中心に活躍する音楽家。コンポーザーとして、あるいはピアニスト、キーボーディストとして数多くの仕事をこなしている。僕が初めて出会ったのは、まだ音大を卒業してすぐの頃だったが、すでに完成されたしっかりとしたピアノ技術を持っていた。その後、最新のテクノロジーを貪欲に吸収し、作曲にもチャレンジし才能が花開いていく様子を、楽しみながら、そして半ば驚きながら見ていた。そんな彼女から、初のオリジナルアルバムが届いた。多彩な活動を通して知り合ったつわものミュージシャンからなるバンド、St.Claireを率い、全曲の作曲はもちろん作詞も手掛けている。
アルバム収録曲は、ゆるやかな連関を持っていて、全体として一つの作品として聞くことができる。ア・カペラ独唱により、物語の開幕を告げられ、M2ではるけき航海へと旅立つ。躍動感のある曲調のなかに洋々たる前途が広がる。M3では世界は曇り、孤独にさいなまれるが、やがて空は晴れ、救済の表情が母性的な優しさを感じさせる。慈愛にみちたピアノ、ヴァイオリン、ヴォイスに、ドラム、ベース、ギターが鋭く切り込み、壮大な盛り上がりを見せ、テーマであるClaireの名前が呼ばれる。
M4で再び旅が始まり、変拍子とテクニカルなフレーズ、フリーにインプロバイズするピアノが推進力を与え、ギターが咆哮する。一転して軽やかなM5では、Claireが自らのことを歌う。インターミッション的小品といった趣だが、Claireが全てを受け入れる存在であることが明かされ、ここでも優しい包容力が世界を慰撫する。
 M6では、今ここからの旅立ちが、肯定的で前進的な曲調を伴って歌われる。テクニカルで激しいインストゥルメント部分を挟み、多様性を認め、全てを抱きしめる。母性的で雄大な曲調が、大きな盛り上がりを見せるとともに、力強い歌唱が、高らかに世界を肯定する。そして終曲。懐かしく暖かいピアノとヴァイオリン、アコースティックギターが、子どもの頃の情景を描き、そこから始まる物語、新たな旅を告げる。
 アルバムを通して聴くと、まるで長い旅を終えたかのような充実感に包まれる。楽曲は複雑で、高い演奏技術を要求するものばかりだが、聴きにくさはみじんもない。表現力豊かなボーカルと、多彩なアレンジに身をゆだねているだけで、様々な景色、雄大な風景の中を冒険しているような体験を味わうことができる。しかも、そのどれもが、優しさと肯定、母性的な豊かさに満ちている。
 様々なフレーズが豊かにきらめく作品だが、それは単に音楽上の工夫、達成だけではない。あらゆることを包み込み、肯定的に作品にしていく姿は、安斎ゆう子がキャリアの中で培った経験の昇華だといえるだろう。多くの人が、その世界に身をゆだねることを望みたい。



高山 博 <Hiroshi Takayama>
・・・音楽家/著述家 Composer/Writer
自らのバンド Charisma 『邂逅』(キングレコード)を初め、W.I.N.S 『W.I.NS』(ビクターエンタテインメント)、KoKoo 『スーパー・ノヴァ』(キングレコード)等への楽曲提供、NHK銀河テレビ小説『妻』、TV朝日 『題名のない音楽会』(出演)、国際交流基金委嘱 『ボロブドゥールの嵐』、香川県芸術祭『南風の祭礼』 など、活動は多岐にわたる。
執筆では、『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』 『ビートルズの作曲法』 などの音楽理論書や、『Pro Tools 11 Software徹底操作ガイド』 『Logic Pro X for Macintosh徹底操作ガイド』 などのDAWやシンセサイザーの解説など多数、音楽雑誌でも健筆をふるう。東京藝術大学大学院非常勤講師、東京工芸大講師、美学校作曲科講師。

コメント

このブログの人気の投稿

ギタリストの流儀❣

お久しぶりデス❣